フロア入力法と詳細計算法の結果比較

2020年4月より、共同住宅の新しい省エネ性能評価方法として、
フロア入力法プログラムが公開されました。
BELS等の申請や、2層以上の住戸(メゾネットタイプや1階に玄関があり2階に住戸がある長屋等)には活用できませんが、共同住宅の省エネ法届出の際に複雑で手間のかかる詳細計算法に対して、より簡素化を目的とした計算方法です。
今回は、どの程度作業が簡素化されるのか、詳細計算法との結果の差がどの程度出るのか、検証してみました。

【作業の簡素化について】
フロア入力法は、

◎ 実際の住棟の形状に関わらず、形状を片廊下型の板状・長方形平面の建物と仮定する。
◎ 住戸数に関わらず、両妻住戸と中住戸の1フロア最大3戸での評価とする。
以上が大きな特徴です。下図はイメージです。フロア入力法

 

まず、建築研究所の計算プログラム公開ページより評価シートをダウンロードします。
評価シートの入力手順としては、以下の通りです。

1. 建物構造・高さ・主たる居室の窓の方位等、基本情報の入力

2. 各階の住戸部分の床面積・同外周長・窓面積・住戸数等、詳細情報の入力

3. 外壁や屋根等の熱貫流率・断熱材位置・断熱補強の有無等、外皮仕様の入力

フロア入力法2

                          ※ 外皮仕様の入力イメージ

以上で外皮性能がエクセルのシート上で算出されます。
入力の際、熱貫流率や窓面積等は事前計算が必要ですが、入力項目自体多くなく、スムーズに評価を進めることが出来ます。

この後は、設備について従来の一次エネルギー計算プログラムで評価を行い、数値結果を入力すると建物の評価結果が算出される仕組みです。

 

【計算結果の比較】
詳細計算法とフロア入力法の計算結果に、どれ位の差がでるのか試算してみました。
(下記はあくまでも一例です。全ての建物に当てはまるものではありません)


■ケース① 木造 3階建 延床面積500㎡ 地域区分7
◎外皮性能        ※ UA : 皮平均熱貫流率
(屋根・外壁:グラスウール断熱材24K t=75 建具:複層ガラス) 

外皮性能 UA(W/(㎡・K) UA基準値
詳細計算法 平均値 0.72 0.87
最大値 0.87
フロア入力法 0.83 0.75


◎一次エネルギー消費量

(空調:ルームエアコン区分「は」 給湯:従来型ガス給湯器 照明:非居室以外LED照明)

一次エネルギー消費量 設計値(GJ/年) 基準値(GJ/年) 基準値からの差
詳細計算法 544.1 578.3 -6.0%
フロア入力法 265.6 278.4 -4.6%


▶結 果 :
詳細計算法による外皮性能は省エネ基準値をクリアしていますが
フロア入力法では基準値が小さくなったことで省エネ基準を超えてしまいました。
一次エネルギー消費量は共に基準値をクリアしていますが、フロア入力法の方が少し悪くなっています。


■ケース② 鉄筋コンクリート造 3階建 延床面積1500㎡ 地域区分5
◎外皮性能
(屋根:押出法ポリスチレンフォーム断熱材 t=35 外壁:吹付硬質ウレタンフォーム t=30 建具:複層ガラス)

外皮性能 UA(W/(㎡・K) UA基準値
詳細計算法 平均値 0.79 0.87
最大値 0.87
フロア入力法 1.08 0.75

 

◎一次エネルギー消費量
(空調:ルームエアコン区分「は」 給湯器:ガス潜熱回収型 照明:非居室以外LED照明)

一次エネルギー消費量 設計値(GJ/年) 基準値(GJ/年) 基準値からの差
詳細計算法 1265.1 1353.0 -6.5%
フロア入力法 474.7 468.9 +1.2%

 

▶結 果 :RC造で省エネ基準値を達成していた建物ですが、こちらは大きく外皮性能の数値が落ちてしまい、基準値を達成出来なくなりました。それに伴い、一次エネルギー値も大きく悪化しています。


以上が試算結果です。

詳細計算法に比べ、フロア入力法の計算結果はやはり不利側となりました。
フロア入力法の注意点としては、
● 簡易的な計算となるため、詳細計算法より外皮性能の基準値が厳しくなります。
● 屋根・外壁の仕様が複数有る場合、不利側の仕様を選択する必要が有ります。
例えば、メーターボックスの壁等、他の外壁より不利な条件の壁を代表として選択しなくてはなりません。
● 共用廊下等の共用部が屋外となると、大きく不利側な数値となります。

フロア入力法は作業の大幅な簡素化が図られ計算し易い方法ですが、届出に支障が出る場合も想定されます。
弊社としては、「詳細計算法」を主な計算方法とすることを薦めています。